HAL便り

法的安定性を度外視したルール変更は統治ではなく暴力である(前編)

2026.05.02

 

 

外国人雇用のミカタ

法的安定性を度外視したルール変更は統治ではなく暴力である(前編)

わずか半年足らずの間に、外国人の在留に関わる主要な制度が立て続けに動いた。政策変更そのものの是非は論じない。問うべきは、その「変え方」だ。要件引き上げ前の申請にまで新基準を遡及適用するという問題と、突然の受入停止——共通して損なわれているものは「制度を信頼して行動した人が守られる」という法的安定性——法治国家の土台そのものだ。

何が起きたのか

経営管理ビザの要件引き上げ(2025年10月16日):資本金3000万円以上の事業規模が必要(従来は500万円以上)、日本人・永住者等の常勤職員を1名以上雇用、JLPT N2以上の日本語能力、経営管理分野の修士以上の学位または3年以上の経営経験が求められるようになった。

帰化要件の引き上げ(2026年3月27日):何年もかけて帰化の準備を進めてきた人たちに対して、十分な周知期間もなく突然の発表となった。

「遡及適用」の問題:引き上げ前に申請した案件にまで新基準を遡って適用し審査するという話が囁かれている。もしこれが事実であるならば、法治国家の根幹を揺るがす事態だ。

遡及適用は、なぜ断じて許されないのか

法の不遡及とは、新しいルールを、その施行前の行為や、すでに形成された法律関係にさかのぼって適用しないという考え方だ。人は、その時点で有効に機能しているルールを前提に行動し、投資し、人生や事業の判断を積み重ねているからだ。

旧基準のもとで適法に申請された案件を、新基準で審査し直すことは、申請者の信頼利益を正面から踏みにじる行為だ。「はしごを外す」行政は信頼されない——こんなことがまかり通れば、誰も行政を信頼しなくなる。

遡及適用が奪うもの

経営管理ビザ:会社設立や事務所契約などの先行投資は当時の審査基準を前提にしたもの。不許可となった場合、投下資金の回収が困難となり、本人は何も違法なことをしていないにもかかわらず、旧基準に従って適法に申請しただけで損害を被る。

帰化申請:帰化申請は、提出書類の準備だけで半年から1年かかることも珍しくない。その途中で要件が引き上げられ、すでに提出済みの申請にまで新基準が適用されるとしたら、「いつ申請しても安心できない」ということになる。

後編では、特定技能外食業の受入一時停止が突きつける「もう一つの法的安定性の毀損」と、二つの制度変更に同時に押し潰される人の具体例を論じる。

行政書士法人HAL

大阪代表行政書士

芳川 恒徳